表現ゆたかに歌うとは

解説ハル監修: 上野目 泰之3

表現ゆたかに歌う力は才能ではなく、安定した発声を土台に少しずつ積み上げる技術だと、やさしく解説します。

表現ゆたかに歌うとは、土台の発声の上で気持ちを音にのせること

「表現ゆたか」と聞くと、生まれつきの才能だと感じるかもしれません。でも、ちがいます。表現は、安定した発声という土台の上に、少しずつ積み上げていく技術です。声がぐらつくと、気持ちは音にのりません。だから、まず発声が先です。

表現は「土台」と「色つけ」の二段がまえ

歌の表現は、大きく二つに分けて考えると、わかりやすくなります。

  • 土台:息・声帯・響き。声を安定させる部分です。
  • 色つけ:強弱・間・言葉の立て方。気持ちを音にのせる部分です。

色つけは、土台があってこそ生きます。家でいえば、土台が基礎で、色つけが内装です。基礎がゆれていると、どんなに飾っても安心して住めません。歌も同じです。

気持ちを音にのせる、3つの入り口

表現の幅を広げる入り口は、たくさんあります。まずは次の3つから試してみてください。

  1. 強さを変える:同じ言葉を、そっと歌う。次に、しっかり歌う。差を感じます。
  2. 間をとる:大事な言葉の前で、ほんの少し待ちます。聞き手の耳がそこに向きます。
  3. 言葉を立てる:歌詞の中で、いちばん伝えたい一語を決めます。そこをていねいに歌います。

どれも、特別な才能はいりません。くりかえせば、だれでも身につきます。

まずは「著作権の切れた曲」で練習する

表現の練習には、著作権が切れた曲(パブリックドメイン)が向いています。だれでも自由に使えて、楽譜も手に入りやすいからです。

  • 滝廉太郎の「荒城の月」:日本語の言葉の流れを、ていねいに歌う練習に向きます。
  • フォスターの「夢路より」:やさしいメロディーで、強弱の練習がしやすい曲です。
  • シューベルトの歌曲:気持ちの移り変わりを、音にのせる学びになります。

これらは作曲家が亡くなって長い年月がたち、自由に使える曲です。安心して練習に使えます。

声の仕事は、歌うことだけではありません

「声を仕事に」と聞くと、歌手だけを思いうかべるかもしれません。でも、道はもっと広いです。

  • 歌う人(合唱・ソロ・ミュージカル など)
  • 話す声を使う人(ナレーション・司会 など)
  • そして、教える人

どの道も、土台はやはり発声です。発声がわかっていれば、表現の幅も広がり、人に伝える力もつきます。

教えるときに役立つこと

表現を学ぶ経験は、そのまま「教える力」になります。

自分が「どう気持ちを音にのせたか」を言葉にできると、それを人に伝えられます。たとえば「ここはそっと」「ここで一息おいて」。こうした声かけは、自分でやってみた人ほど、的確になります。

教える側になる道も、声の仕事のひとつです。自分が歌うだけでなく、だれかの表現を引き出す。これも、ゆたかな関わり方です。

なお、歌は体を使う活動です。長く歌うと、のどがつかれることもあります。痛みや強い不調があれば、無理をせず、専門の医療機関へ相談してください。

自分に合う道を、いっしょに探しましょう

表現の道に、正解はひとつではありません。歌う・話す・教える。どれを選んでも、土台の発声がささえになります。

自分はどの道に向いているのか。気になった人は、適性診断で確かめてみてください。短い質問に答えるだけで、いまの自分に合いそうな方向が見えてきます。独りで悩まず、まずは一歩、踏み出してみましょう。

よくある質問

表現ゆたかに歌うのは、才能がないとむずかしいですか?
いいえ。表現は才能ではなく、練習で身につく技術です。安定した発声を土台にして、強弱や間を少しずつ試していけば、だれでも幅を広げられます。
練習には、どんな曲を選べばよいですか?
まずは著作権の切れた曲(パブリックドメイン)がおすすめです。滝廉太郎やフォスター、シューベルトなどは自由に使え、楽譜も手に入りやすいので、安心して練習に使えます。
歌うのが苦手でも、声の仕事はできますか?
はい。声の仕事は歌うことだけではありません。話す声を使う道や、人に教える道もあります。どの道も土台は発声なので、そこを学べば選べる道は広がります。

参考にした一次情報

  • MUSEION 版権切れ声楽データベース(vocal_works・童謡/歌曲の章)
  • MUSEION 声楽用語事典(発声生理・共鳴の章)