異業種から声の仕事へ移るには

体験談みち監修: 上野目 泰之3

別の仕事から声の指導へ移った人の歩みを、つまずきと乗りこえ方つきでたどります。今日からできる準備を、具体的な手順で整理します。

結論:前の仕事の経験は、声を教える土台になります

ちがう業界から、声を教える道へ。遠回りに見えるかもしれません。でも、人と話してきた時間も、だれかに何かを教えてきた時間も、声の指導でそのままいきます。ここでは、ある人の歩みをたどりながら、今日から始められる準備を整理します。

ある人の歩み(よくある流れをまとめた例)

特定のだれかではなく、相談でよく聞く流れをまとめた例です。

その人は、40代まで接客と研修の仕事をしていました。歌の専門教育は受けていません。趣味は合唱とカラオケだけでした。

きっかけは、後輩に「高い声が出ない」と相談されたことです。息の使い方を言葉にして伝えたら、相手の声が変わりました。その手ごたえが忘れられず、声を学び直し始めます。

3つのつまずきと、その答え

始める前、その人は3つの不安をかかえていました。同じ不安を持つ人は多いはずです。

  • 資格がないと教えられないのでは — ボイストレーナーに国家資格はありません。名乗ること自体はできます。ただ、名乗るだけでは信頼は集まりません。だから学びを重ねる、という順番になります。
  • 自分はうまく歌えない — 歌う力と、教える力は別ものです。歌い手として一流である必要はありません。手本を短く示せれば、出発点としては足ります。
  • 何から学べばいいか分からない — 声のしくみから入る、と決めると道が見えます。土台が分かると、相手に合わせて応用できるからです。

不安は、頭の中だけでは消えません。小さく動くたびに、ひとつずつ軽くなりました。

まねできる学びの順番(目安つき)

その人がたどった順番です。期間はあくまで目安として書きます。

  1. 声のしくみを知る(最初の1〜2か月) — 息・声帯・響きが、体のどこで働くかを言葉で説明できるようにします。
  2. 自分の声で試す(毎日10分) — 学んだことを、まず自分の体で確かめます。録音して聞き返すと変化が分かります。
  3. 聞く耳を育てる(週に数回) — 「今の音は高い・低い」を当てる練習を、短くくり返します。
  4. 身近な人に伝える(月に1人から) — 家族や友人に、コツを言葉だけで説明してみます。伝わらない所が、自分の課題です。

この4つを、あせらず続けました。声をこわさない練習の進め方も、合わせて学びます。なお、声に痛みやかれが続くときは、自分で判断せず、耳鼻咽喉科など専門機関に相談してください。

前の仕事が、そのまま生きた場面

その人の場合、接客と研修の経験が、指導の現場で役立ちました。

人前で話してきた時間は、生徒の前で落ち着くための支えになります。年齢を重ねて選ぶ言葉は、相手の心にとどきやすい。自分がつまずいた記憶は、同じ所でつまずく人の気持ちを分かる手がかりになります。経験の種類が多いほど、引き出しは増えます。

「教える道」は、別の技術です

声を学んだ先には、自分が表現する道だけでなく、人に手わたす道もあります。

教える仕事で問われるのは、自分ができることではありません。相手の「できない」を「できる」に変える道すじを、言葉で示せることです。これは才能ではなく、学んで身につく技術です。だからこそ、別の業界から来た人にもひらかれています。

まず、自分の声を録ってみる

「自分に向いているか」は、ひとりで考えても答えが出にくいものです。今日できる一歩は、スマホで自分の声を1分録ってみること。聞き返すと、自分の声を客観的に聞く感覚がつかめます。

そのうえで、いまの経験や状況が指導の道にどう生きるかを、いっしょに棚おろししてみませんか。あなたの回り道を強みに翻訳する地図として、適性診断を使ってみてください。

よくある質問

ボイストレーナーになるのに資格はいりますか?
国家資格はありません。資格がなくても名乗ることはできます。ただし、名乗るだけでは信頼は集まりにくいです。声のしくみや教え方を学んでおくと、自分の説明に根拠が持てます。
別の仕事の経験は、声の指導でいきますか?
はい。人前で話す力や、人に教えてきた力は、そのまま役立ちます。自分がつまずいた経験も、同じ悩みを持つ人を理解する手がかりになります。経験の種類が多いほど、対応の引き出しは増えます。
自分があまりうまく歌えなくても始められますか?
歌う力と、教える力は別ものです。手本を短く示せる程度に歌えれば、出発点としては足ります。それよりも、声のしくみを言葉で説明できるほうが、指導では役立ちます。